自分のことばで自分の音楽を
自分の感動を他人(ひと)に伝える…ということは気分よく自己陶酔的に歌い上げることでは
ありません。ポピュラーにしろクラシックにしろ歌っていらっしゃる方が、歌詞の内容をまるで
自分の身に置きかえて歌っているようにみえたり、その歌詞の内容に託して個人的なメッセージ
を伝えようとしているようにみえることがよくあります。
正直、そういう音楽を聞いていると、こちらが恥ずかしくなってしまったり…うんざりしてしまったり
します。
音楽にはもっと普遍性が必要です。
私は、自分のレパートリーにできる限りジャンルのワクを設けず、楽譜や音をとおして感動した曲
をできるだけたくさん歌っていきたいと思っています。
オペラであろうと歌曲であろうと、唱歌であろうと歌謡曲であろうと、まず、すべて同じレベルの作
品としてとらえてゆかなければ、それぞれの曲の本当の深さを知ることができないと思うのです。
言いかえると、クラシック歌手である私のようなものが、唱歌や童謡を幼児語で歌ったり、歌謡曲
を鼻歌的に歌ったりしては、作品の持つ魅力など見つけられるはずがありません。
もちろん作品にはそれぞれ様式とかスタイルとかがあって、それがその都度要求されてくるのは
当然ですが、それ以上に…それをもっと深くさぐるためにも、自分自身の音楽の物差しをいっさい
変えずにアプローチしてゆくことが大事なことに思えます。
先入観にたよらずに自分の視点で音楽を考え、自分のことばで自分の音楽を演奏する。これが
本当の「音楽の喜び」「歌う喜び」に通じていくような気がしてなりません。
【おわり】
©Copyright Sae masae-sasako 2002. All rights reserved.